時の乗り物 . 2021

 

あっという間の1年
何かをしようと思えばできたのかもしれないけれど、
日々、
仕事、家事、介護、雑用に追われ、
特に介護に関しては、予想だにしないことが起きます。
今年は、流れについていくのに精一杯な毎日。
「こなす」ことに乗り遅れないようにすることのみ。

子供は、
【昨日できなかったことが今日はできる】
それは希望を生みますが、
高齢者は、
【昨日できたことが今日はできない】
怒りやあきらめ哀しみ、葛藤の日々です。

私事で喜怒哀楽の激しい一年だったかもしれません。

そんな日常のなかコロナ禍とはいえ、
ちょっと遠方に出かけられただけでも有り難いと思ってしまいます。

母を施設に預かってもらえるだけでも精神的な安堵と解放感が得られ、
本当に、携わってくださる方々へは感謝しかありません。

なるべく、新幹線で1時間くらいのところでないと、いざという時に帰れない。
数年前、こんなこと考えたことはありませんでした。

人並みに、
人として順番に歩まなければならない道を歩ませていただいているんだ、
今の自分はこういう時期、と、
自分に言い聞かせることもあります。

最近は新幹線に乗っていても、
「早く岐阜に戻らなきゃ」という気持ちで、
何か、焦ってしまいます。

2003年、
フィレンツェからベネチアまで
『オリエント急行』に乗る機会がありました。

青列車のデッキをゆっくり上がり、
ドレスコードに従い、
ディナーをいただき、
夜遅くベネチアへ到着。

クラッシックな個室で、
アガサ.クリスティー、
エルキュール.ポアロのことを考えながら、
車窓から、
イタリアの田舎風景を照らす陽がゆっくり落ちていくのを
ぼんやり眺める。
そんな贅沢な時間をいただきました。

年末恒例の、
(昨年はコロナのため開催されず)
バイオリンコンクールに出かける朝、
雪で電車の遅延を覚悟して出かけましたが、
大した遅れもなく、無事会場に到着でき、
これも動いてくれる列車のおかげ。

生徒達にとって、
目標に向かう過程が大切ということを体得できる行事が、
無事終わりました。
皆さん何かしら得るものがあったことでしょう。

人生の旅の長さ、
時間の使い方、その時間の濃さ、速度、
それは人それぞれです。

今の私は、
なんとか一生懸命、
先の目的地が見えない状態の列車で、
毎日試行錯誤しながら、
車窓を眺める余裕もなく、
走り続ける列車に乗っています。

来年は、
同じ走り続ける列車でも、
ほんの少しでいいから
車窓を眺められる余裕が心に持てれば…。

喜怒哀楽を繰り返しながら
『生きる』という乗り物の車窓を
楽しめる自分になれればと、
言い聞かせています。

中村吉右衛門さん

父が、時代劇、西部劇が好きだったせいか、
子供の頃からよく一緒に、
ジョンウェイン、ゲイリークーパー等々の映画を観ていて、
「シェーン」に限っては何度観たことでしょう。

戦争映画ではありますが、
グレゴリーペックの他、
多数のスター俳優が名前を連ねる
「ナバロンの要塞」も、
結末がわかってはいても、テレビで放映されるたびに視聴。
子供ながらにグレゴリーペックのカッコ良さに惹かれ、
「ローマの休日」から「アラバマ物語」「紳士協定」等、
社会派の映画まで、片っ端から観た記憶があります。

昔のハリウッド俳優の存在感絶大なスター性。

先日、中村吉右衛門さんの訃報が流れました。

『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵。
「鬼の平蔵」
物語のテーマがしっかりあり、人の有り様が細かに描かれ、
鬼平の人間臭さと、粋な計らい。
めでたしめでたし…で終わるばかりではなく、
それがまた俗世間っぽくて良い。

他の時代劇とは全く違い、
短編小説を読んでいるかのように、
一話一話、のめり込んで観ていました。(もちろん池波正太郎さんの小説なので)。
鬼平の、
頑固でもあり柔和でもあり、
粋で筋の通った格好良さ。
食通で、江戸の小粋なお料理も彩りを与えていた作品。

別格で秀逸の時代劇でした。

ドラマの最後、
『ジプシーキングス』の音楽
「インスピレイション」が流れ、
最初、
時代劇にジプシーキングス???と、
少しビックリしましたが、
映像と相まってこれがピッタリ。
なんとも悲しげで、物語に余韻を残し、
視聴者に、
その後の想像力や静かな感動、
空虚な時間を与える見事なエンディング。
この選曲、格好良すぎ。

吉右衛門さんの人生も静かなエンディング。

私のなかで、ジプシーキングスの
ラテンギターの音色が哀愁いっぱいに響いています。

中村吉右衛門さん、鬼の平蔵さん、
大好きでした。

父との思い出と共に、
素晴らしい作品をありがとうございました。

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